末摘花 (源氏物語)
末摘花(すえつむはな)とは、
- 『源氏物語』五十四帖の巻名のひとつ。第6帖。若紫の本の巻・並びの巻。源氏18歳正月頃~19歳正月。巻名は光源氏の歌「なつかしき色ともなしに何にこのすえつむ花を袖にふれけむ」による。
- 『源氏物語』に登場する女性の一人に対する通称。不美人でありながらも生涯光源氏と関わり続けた女性の一人。「末摘花」とは、源氏がこの女性につけたあだ名で、彼女の「鼻が紅い」こととベニバナの「花が紅い」ことをかけたものである。「末摘花」から「若菜上」まで登場。
源氏物語五十四帖 | |||
各帖のあらすじ | |||
帖 | 名 | 帖 | 名 |
---|---|---|---|
1 | 桐壺 | 28 | 野分 |
2 | 帚木 | 29 | 行幸 |
3 | 空蝉 | 30 | 藤袴 |
4 | 夕顔 | 31 | 真木柱 |
5 | 若紫 | 32 | 梅枝 |
6 | 末摘花 | 33 | 藤裏葉 |
7 | 紅葉賀 | 34 | 若菜 |
8 | 花宴 | 35 | 柏木 |
9 | 葵 | 36 | 横笛 |
10 | 賢木 | 37 | 鈴虫 |
11 | 花散里 | 38 | 夕霧 |
12 | 須磨 | 39 | 御法 |
13 | 明石 | 40 | 幻 |
14 | 澪標 | 41 | 雲隠 |
15 | 蓬生 | 42 | 匂宮 |
16 | 関屋 | 43 | 紅梅 |
17 | 絵合 | 44 | 竹河 |
18 | 松風 | 45 | 橋姫 |
19 | 薄雲 | 46 | 椎本 |
20 | 朝顔 | 47 | 総角 |
21 | 少女 | 48 | 早蕨 |
22 | 玉鬘 | 49 | 宿木 |
23 | 初音 | 50 | 東屋 |
24 | 胡蝶 | 51 | 浮舟 |
25 | 蛍 | 52 | 蜻蛉 |
26 | 常夏 | 53 | 手習 |
27 | 篝火 | 54 | 夢浮橋 |
あらすじ
[編集]乳母子の大輔の命婦から亡き常陸宮の姫君の噂を聞いた源氏は、「零落した悲劇の姫君」という幻想に憧れと好奇心を抱いて求愛した。親友の頭中将とも競い合って逢瀬を果たしたものの、彼女の対応の覚束なさは源氏を困惑させた。さらにある雪の朝、姫君の顔を覗き見た光源氏はその醜さに仰天する。その後もあまりに世間知らずな言動の数々に辟易しつつも、源氏は彼女の困窮ぶりに同情し、また素直な心根に見捨てられないものを感じて、彼女の暮らし向きへ援助を行うようになった。二条の自宅で源氏は鼻の赤い女人の絵を描き、さらに自分の鼻にも赤い絵の具を塗って、若紫と兄妹のように戯れるのだった。
人物
[編集]常陸宮と呼ばれるれっきとした皇族の一人娘だが、後ろ盾である父親を早くに亡くし困窮していた。僧侶となった兄と国守に嫁いだ叔母がいるが、経済的な援助は見込めず、あばら家となった屋敷で年老いた女房たちと暮らしている。
極端に古風な教育を受け、頑固で一途、純真そのものの深窓の令嬢。源氏物語で最も細かく容貌を描写された女性で、美男美女ぞろいの源氏物語の中では異色の不美人である。「髪は素晴らしいが、座高が高く、やせ細っていて顔は青白い、中でも鼻が大きく垂れ下がってゾウのよう、その先は赤くなっているのが酷い有様」と酷評されている。 「表着(うわぎ)には黒貂(ふるき)の皮衣(かわぎぬ)、いときよらにかうばしきを着たまへり」と奇抜なファッションであるが、非常に高級なクロテン(セーブル)の毛皮に香を焚き染めて着ている事により、父宮ありし日の裕福さと亡き後の没落が見事に表現されている。
おとなしく実直な性格だが、滑稽なまでに古風で堅苦しく、世間知らずの面を露呈する。昔気質で気の利かない性質の為、引き取られてからも源氏を「こちらが恥ずかしくなる」と度々閉口させた。このように一見家柄以外に取柄のない彼女だが、頑迷さは純真な心の裏返しであり、源氏に忘れられていた間も一途に彼を信じて待ち続けた。それに感動した源氏によりその後二条東院に引き取られ、妻の一人として晩年を平穏に過した。